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コンクリート養生の新常識
2024.11.19
1.はじめに
従来から行われているコンクリート打設後の養生は、散水後ポリフィルムを覆い、防護ネット等(写真1)で風散防止を行う。水密性を保ちセメントの水和反応に必要とされる水分の蒸発を防ぎ、コンクリート表面の乾燥収縮によるひび割れや亀甲状に割れるプラスチックひび割れ等の初期ひび割れの抵抗性を向上させ、品質を確保する事である。特にコンクリート打設当日の床仕上げ終了後から散水シート養生を行い、3日間〜10日間の期間が必須とされる。ただし、打設後の翌日から10日間養生を行う場合と、打設当日から3日間の散水シート養生を行う場合では後者のほうが養生効果が高い。理由は打設後の翌日に養生を行うとコンクリート打設後の表面の蒸発により抜けた水分が水和結晶を毀損し、初期ひび割れを発生させる。コンクリート表面の品質上、打設当日の養生(写真2)は品質を確保する上で最も重要と考える。


ただし昨今の働き方改革の観点から土間仕上げ終了後の散水シート養生は打設後の当日に散水のみを行い、翌日からシート養生(写真3)を行うことも多い。これでは本来のコンクリート養生の目的からは逸脱していることになるが、残業時間の規制や土日の閉所日も増加していることからコンクリート打設後の養生は仕上げ終了後に行うことは難しいのも事実である。

そこでコンクリート養生を浸透型の散布により養生効果を得られるフィックスガード養生材(写真4)を提案したい。この養生材は高分子型ノニオン系界面活性剤で原液160gに対し水100ℓで希釈し散布するものである。これを打設当日の床仕上げ終了後に散布(写真5)し2〜3日間の初期養生を確保するというものである。


実際に床スラブでフィックスガード散布したものと、無散布でシート養生のみを行ったものとで実施した。屋上コンクリート打設140㎡のうちそれぞれ70㎡ごとにシート養生(写真6)とフィックスガードにて養生(写真7)を行い打設当日から5日間の養生を行った。


現場は気温30.9℃、風速3mから5mであった。5日間の養生を経てひび割れ具合を目視確認した。その結果、打設後のシート養生では亀甲状の割れが5㎡程度が1箇所、2㎡程度が2箇所、1㎡程度が4箇所確認され、 地割れのようなひび割れ跡(写真8)が残った。

これらを考察すると、養生前のコンクリートの表面温度と内部の凝結の遅延差による割れおよび風による表面蒸発の影響があったことから、これらのひび割れには養生効果と直接的な関係は薄いと考えられる。一方でフィックスガードにて散布のみを行い5日間経過後、ひび割れ具合を確認した。その結果30㎝角が1箇所、10㎝角が1箇所のみのひび割れが確認された。(写真9)上記シート養生の際にも述べたが、打設時から仕上げ終了後までの風や直射により発生する割れは直接的に養生効果と直結するものではないと考える。双方の結果を踏まえ明らかにフィックスガードによる打設後5日後のひび割れ目視確認においては50%以上の低減が確認された。

また施工時間の比較では、散水シート養生の場合1,000㎡あたり作業時間5時間程度(防護ネット敷き設込みまで)で人工は3〜4人工程度となるが、フィックスガード散布は作業時間30〜40分程度で人工は1人工で終了する。このことからも昨今の人手不足による省人化が可能となり大幅な時間短縮が図れることから建設現場での利点は大きい。またフィックスガードは現在日本国内の普及に向けJASSに基づく試験等(写真10)を順次実施し、その他の試験機関および許可を得ての民間現場等にて実証的な検知の観点からひび割れ及びその他不具合がないか等を含め実施している。これらは昨今の建設現場における残業時間の規制問題等でコンクリート打設後の養生が本来は仕上げ当日に行わなければいけないのが品質上求められているが、現場においては打設後翌日に行われているのが実状である。また現在4週8閉所の休日をとる現場も増加していることから例えば金曜日に打設が行われると翌日の養生作業が出来なくなり翌週からの養生作業が発生する現場も存在する。これでは本来の養生の目的からは逸脱しているのは言うまでもない。

しかしながら昨今の人手不足及び労働時間の問題は深刻で、ますますコンクリートの品質低下が懸念されるなか、フィックスガード等による散布型で効果のある材料等が期待されている。また散布型の養生にすることにより昨今の脱炭素社会の実現に向けた取り組みとしてポリフィルム材(写真11)の廃材がゼロになることから環境問題としても持続可能な建設材料として普及させていく必要があると考える。例えば50000㎡あたりに使用されるポリフィルム材は一束90㎡として555本程度の材料が必要となる。それらが不要となることを考えると今後の大型物流施設や工場の建設及びその他工事における養生材が散布に代わることによるメリットは建設業としても社会的に与えるインパクトは大きいものと考える。

2.おわりに
今回はコンクリート養生の新技術として従来の養生と散布型の養生によるひび割れの比較として提言したが、今後の現場における養生手段の一案として推進していきたいと考えている。その背景には前記に述べてきたが労働時間の問題や人手不足による省力化が叫ばれている中、コンクリート養生の本来の考え方が根本としてある中で様々な働き方や職場環境によって品質そのものが揺らぐことがないような施策を講ずる必要があると考える。間違いなく言えることは今後も「人手不足」というワードが消えることはないと思われるがその分の省力化の実践こそが我々業界にも問われているのではないだろうか。5人で行う施工を1人で担う工法が確立されれば1000人工かかる工数が200人工に省力化されるのである。
これらを一社に限らず業界全体で実践していくことこそが人手不足の本当の解決なのではないだろうか。
この記事を書いた人:DXマテリアル株式会社 尾島浩二